魚沼市(新潟) 高倉山(929.7m)、丸山(528m) 2023年3月19日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 5:37 除雪終点(駐車箇所)−−7:49 林道終点−−8:05 斜面取付−−8:50 740m峰−−9:20 780m峰−−10:02 900m肩−−10:37 892m峰−−10:50 高倉山(休憩) 11:35−−11:44 892m峰−−12:18 900m肩−−12:39 780m峰−−12:54 820m峰−−13:10 754m峰−−13:29 686m峰−−13:42 林道終点(590m鞍部)−−13:54 610m峰−−14:16 540m峰−−14:31 丸山(休憩) 14:47−−15:08 林道−−15:33 右岸→左岸への橋−−16:04 左岸→右岸への橋−−16:18 右岸→左岸への橋−−16:35 県道 16:37−−16:44 除雪終点(駐車箇所)

場所新潟県魚沼市
年月日2023年3月19日 日帰り
天候快晴
山行種類残雪期の藪山
交通手段マイカー
駐車場車道終点に駐車余地あり
登山道の有無無し
籔の有無雪が落ちた尾根上は灌木藪。無雪期は非常に厳しいだろう
危険個所の有無羽根川及び深道川沿いの林道はデブリだらけで雪崩に厳重注意。雪が締まった時間帯はデブリ高巻で沢への転落に注意。尾根上は雪庇踏抜、痩せ尾根での転落&滑落などに注意
冬装備スノーシュー(大活躍)、10本爪アイゼン(出番無し)、ピッケル
山頂の展望高倉山:360度の大展望   丸山:立木のある西以外は良好
GPSトラックログ
(GPX形式)
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コメントネット検索で登山記録が発見できなかった珍しい山。三ッ又集落から羽根川沿いの林道を使って高倉山に達し、帰りは尾根を丸山まで辿って深道川沿いの林道に下って三ッ又集落に戻った。まだ雪が締まり切っていないため林道歩きでも体力を消耗し、行動時間は11時間に及んで最後はヘロヘロだった。でも藪が出ている場所は限定的でほとんは雪稜を歩くことができた。このルートを歩くには一般的には一泊が必要だろう。ルート上は尾根幅が広い場所が多く幕営可能な場所は多数あった。一番の危険地帯は雪崩多発地帯である林道と本沢だった


高倉山から見た桧岳〜毛猛山
地図クリックで等倍表示


除雪終点の駐車余地 三ッ又集落
霧の中を進む 林道はデブリの巣窟。でもスノーシューのままで歩けた
枝の水滴が凍っている 羽根川本流にかかるスノーブリッジ
林道起点から約5km。路面は草で覆われ廃林道状態らしい 羽根川本流にかかる赤い橋
新雪が降ったようだ 地形図通りの場所で林道終点。沢の中へ
沢はデブリで埋め尽くされていた このすぐ先で流れが出ている
左手の斜面を登ることに 快適なブナ林の尾根に変わるが・・・
すぐに雪が落ちて灌木藪に突入 できるだけ北斜面の残雪を利用
標高650m付近
標高670m付近から740m峰を見ている
740m峰からの展望
740m峰南側鞍部で僅かに藪が出ていた 752m峰から南東を見ている
730m鞍部から南東を見ている 標高770m付近から振り返る
789m峰北方の780m峰から見た高倉山にかけての尾根
東の780m峰から東を見ている
900m肩への登り 場所によっては積雪は50cm程度しかない
900m肩直下。まだ霧氷が残って白い 900m肩から見た高倉山に続く尾根
892m峰直下の藪。右の雪原を巻いた 黒又第二ダムの堰き止め湖
霧氷がまだ張り付いていた 最初の雪の切れ目。右の藪から巻いた
尾根東側の残雪帯を利用 次の雪の切れ目。右の藪をへつった
標高880m付近 標高850m付近から振り返る
標高840m付近 820m鞍部からの登り返し
標高840m付近 標高860m付近
標高870m付近。ここを右へ巻いた 892m峰直下の藪
東向きの微小尾根に沿ってクレバスが口を開けている 892m峰から見た高倉山
雪が消えた場所の植生 高倉山直下
高倉山山頂
高倉山山頂から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
高倉山を出発。しばし往路を戻る 892m峰から藪を避けて東に迂回
クレバスが無ければショートカットできるのだが 820m鞍部から南を見ている
標高840m付近から939m峰方面を見ている
下段の段差 上段の段差
900m肩から下る 810m峰
810m峰から見た820m峰方面 東の780m峰への登り返し
西の780m峰への登り返し 西の780m峰は南北に雪庇がある
西の780m峰で往路と分かれる これ以降は自分の足跡は無い
820m峰 標高800m付近
820m峰東の肩から西の肩を見ている 820m峰西の肩から西を見ている
標高800m付近 標高790mに地形図に表現されない微小ピークあり
790m微小ピークから西を見ている 760m肩から北西を見ている。ピークは759m峰
760m肩の下りは急 740m鞍部からの登り返し
759m峰から見た686m峰と北に派生する尾根
759m峰から820m峰を振り返る 759m峰からの下りは雪が落ちて灌木藪
標高710m付近 標高700m付近
標高700m付近 686m峰東側の沢
686m峰直下 686m峰から見た西に続く尾根
これが丸山だと思っていた。正しくは540m峰 686m峰の急な下り
標高610m付近 標高600m付近
590m鞍部。610m峰への登りは藪が出ている 590m鞍部から東を見ている。林道終点の広場
ここで雪は終わって藪へ突入 藪は灌木藪
藪突入前にスノーシューはザックへ マンサクの花
610m峰てっぺん 610m峰てっぺんには境界標石あり
610m峰から759m峰を見上げる
610m峰から見た丸山。まだ遠い
610m峰の下り 刃物の切口。複数個所で見られた
標高580m付近から振り返る 標高580m付近から見た540m峰
520m鞍部手前の標高540m付近 540m峰。丸山と誤認しそうになった
540m峰から見た520m峰 尾根が曲がった部分が丸山山頂
520m峰
520m峰から見た丸山山頂部
丸山直下から下ってきた尾根を振り返る
もうすぐ丸山山頂 丸山山頂
丸山山頂から見た北西〜北〜東〜南の展望(クリックで拡大)
丸山山頂から見た高倉山 丸山山頂から見た桧岳
丸山から見た西に続く尾根 西尾根を下り始める
西尾根を下り始めるが藪が出て北斜面を迂回 急斜面はバックで滑り降りた(滑り落ちた?)
西尾根はずっと藪が出ているようだ 北斜面をトラバース中
左右に延びたクレバス登場 クレバスを真横から見ている
クレバスを下から見ている 標高410m付近で北斜面の雪も落ちていた
仕方なく横ではなく下を目指す 登ろうとは思えない急斜面を下ってきた
谷底に降り立つ。上流側を見ている こちらは下流側。狭い回廊状
谷底はデブリだらけで雪崩危険地帯 林道に到着
下ってきた沢 上流方向の林道
深道川沿いの林道もデブリだらけ 足首まで潜り平坦地でも疲れる
最初の橋 2番目の橋
3番目の橋。ここから県道に入った ポールだけのカーブミラー
三ッ又集落 深道川。渡れれば駐車箇所まで近いのだが・・・
県道の橋が見えてきた ここで道路に降り立つ
駐車箇所到着。疲れた!


 高倉山と丸山。ありふれた山名でありネットで検索をかけるとそれこそ山ほどヒットするが、奥只見に近い両山は記録が無いようであった。正確には他の高倉山、丸山の記録が多数あって発見できなかっただけかもしれないが、検索条件を絞っても記録は発見できなかった。2つの山の場所は魚沼市北部の唐松山〜鼓が倉山の間の尾根から派生した枝尾根にあり、おそらく登山道は存在しない。里から離れてアプローチの悪い場所にあり、登られることはほとんどないだろう。もちろん、豪雪地帯なので道が無ければ藪が深く、実質上、残雪期以外の登頂はほぼ不可能であろう。

 この山の存在を知ったのは2019年4月中旬にこの近くの大倉山に登ったときであるが、大倉山よりもさらに奥深いところにあって時間がかかるため、気にはなっていたが後回しになっていた。今回は本来は別の山に行こうと考えていたところを直前に冷たい雨が降って標高がある程度高い山では新雪がかなり積もったと予想され、ラッセル地獄で計画遂行が困難と判断して標高が低い高倉山に決めた経緯がある。結果的にはもっと標高が高い山でもそれほど積雪はなかったようだが、高倉山でも充分に満足できる山行となった。

 高倉山がメインであるが尾根続きの丸山もついでに登るのが効率的であろう。そうなるとルートは深道川沿いの林道から丸山に登って尾根上を進んで高倉山に達するのが常識的な判断だろう。最初はそれで行こうと思っていたが、高倉山、丸山とも標高が低く、特に丸山は約500mしかないので尾根上の残雪はかなり減って藪が出ていると予想された。悪いことに林道から丸山の尾根に達するには西向きの斜面を登ることになり、西向き斜面は特に雪が落ちるのが早いのが一般的であり、藪が出ている可能性はさらに高いと予想された。このため、登りでの丸山経由は止めて下りとなる帰りに立ち寄ることにして、往路は羽根川沿いの林道を終点まで進んで適当な尾根を登って高倉山に続く尾根に達することにした。これなら北向きの尾根を登ることになるので残雪が期待できるだろう。

 このルートの場合、おそらく難関は林道歩き。デブリの押し出しが多数あって雪の急斜面と化しているだろうし、そもそも雪崩のリスクも高い。しかし藪が予想される尾根を最初から行くよりも早く楽ができるのは間違いないだろう。

 土曜日は冷たい雨で長野北部と新潟は大雪注意報が出たくらい。長野でも冷たい雨で最高気温は 1桁しか届かず山では確実に雪と思われた。下手をすると標高1000m以下でもラッセルの可能性も。積雪量は現場に行かないと分からないので行ってみるしかない。

 前日夕方に出発したが道中の気温は+3〜+4℃で雪になる直前の気温が続いた。低い雲に山は覆われて新雪がどれくらい積もったのか分からなかった。登山口となる三ッ又集落手前の駐車余地で車中泊し、翌朝に現場に入る。大倉山に登ったときと同じく除雪終点の広場に駐車。前回は石碑が雪から出ていたが今回は雪に埋もれたまま。続く林道は1m以上の雪壁で取り付くのが面倒なほどで、池の脇で雪面が下がった場所から取り付いた。大倉山に登ったのは4月中旬なので今から1ヵ月後だったので雪が少ないのも当然か。

 今回の装備であるが、足元は防寒長靴にスノーシュー。10本爪アイゼンをザックに入れて片手にはピッケル。これらは林道での危険個所で出番があるかもしれないが、無いことにこしたことはない(アイゼンは最後まで使わなかった)。さて無事に高倉山山頂に登頂成功して戻ってくることができるだろうか。

 集落近くでは雪面には新雪は無しで古い雪のみでここでも雨だったようだ。しかし思ったよりも締まりがなくスノーシューでも僅かに沈む。幸いにして途中までは足跡がありその上に乗ると全く沈まないので利用させてもらったが、それは雪に埋もれた畑の雪解けを促進する灰のような黒い粒子状の物体を畑の上に散布した箇所までであった。これは結構効果があるようで、撒かれたエリアは他と比較して雪面が下がっていた。雪を掘るよりは除雪に時間はかかるが手間は大幅にかからないのでいい方法だろう。

 林道は完全に雪に埋もれているのは前回同様だが残雪量は明らかに今回の方が多く、本流にスノーブリッジがかかっている箇所が何か所もあった。前回はそんな箇所は全く無かったのを覚えている。林道に押し出したデブリは前回の記憶がないが、スノーシューのままで通過可能な場所ばかりでありアイゼンの出番はなかった。ただし、真新しいデブリを見かけると気味が悪く、いつ雪崩が発生してもおかしくない場所の連続であった。気温が上昇する時間帯に林道を歩くときは十分な注意が必要だろう。

 大倉山に登ったときに使った尾根取付がどこなのか分からないまま通過、なおも進んで林道終点に到着。地形図ではここから沢沿いに破線が書かれており、もしかしたら林道が延伸されているかと思ったが地形図通りであった。この先は林道の平坦部がなくなって斜面となりスノーシューで歩くのは難しくなるが、幸いにして林道終点を境にして本沢は大量のデブリに埋もれて流れが見えなくなったので、沢に降りて真ん中を歩くことにした。沢の中は両岸から大量のデブリが押し寄せていて、いつ雪崩が発生してもおかしくない状況であり絶えず左右を確認しながら進んでいく。これほど大量のデブリに遭遇したのは初めてである。

 やがて沢の幅が狭まって前方から水音が聞こえてきた。そこだけぽっかりと穴が開いて流れが出ているが、両側は急雪面で簡単には迂回できそうにない。もう斜面に取り付いて上を目指していいだろうと判断して左手の斜面へ取り付くことにした。

 最初は急斜面で苦労したが、それを乗り切れば尾根形状がはっきりしてブナが立ち並んだ残雪帯になり歩きやすくなる。しかし先に進むと尾根幅が狭まって雪が落ちてしまい灌木藪が邪魔をする。スノーシューで灌木を突破するのは面倒だが、その先も緩い雪が続くので藪の度にスノーシューの脱着を繰り返すのも面倒なので、スノーシューのまま藪に突っ込む。距離が短いので我慢できたが、尾根上を登るよりも雪に埋もれた北側の谷を登った方が楽だったと思われた。所々では尾根の北斜面を迂回したが、もし雪がもっと締まって固かったらスノーシューでは足への負担が大きく無理だっただろう。

 標高620m付近で傾斜が緩むと尾根全体を残雪が覆うようになり藪から解放される。再び背の高いブナ林に変わり気持ちよく歩ける。東向きの尾根で正面から日差しを受けて日焼け確実なので顔に日焼け止めを塗った。今回も日焼け防止に麦わら帽子を持ってきているが、日が低い時間帯は役に立たないし、残雪期は照り返しだけでも日焼けしてしまう。

 登り切った地点が740m峰で大倉山から唐松山に繋がる主稜線である。北東側には高倉山が見えているが西斜面を見ている影響か雪が落ちて藪が出ている区間が流そうだ。高倉山へ繋がる尾根はまっすぐではなく右手に大きく迂回するようにつながっているので時間がかかりそうだ。ついでにいくつかのピークも越える必要がある。この時点では新雪は1cm程度で影響はない。昨日はこの高さでもガスがかかっていたようで木の枝には霧氷が残っていた。雪の沈み方は数cm程度でマシな方だろう。しかしこの沈み方が延々と続くとじわじわと体力を搾り取られるだろう。

 752m峰を越えて789m峰北側の780m峰で高倉山への尾根分岐。ここには小さな雪庇ができているが高さ1m程度なので問題なく下ることができた。ここからだと939m峰が高倉山よりも立派に見えるが、あのピークは登る必要はなく北西の900m肩を通過することになる。780m峰からの下りは東向きの尾根であるが、これまでより明らかに新雪の積もった深さがあり10cm程度。この後も概ね東向きの尾根で新雪量が多かった。風の影響だろうか。

 東側の780m峰へ登ると下りはやや急だがスノーシューでも前を向いたまま歩ける程度。810m峰を越えて900m肩への登りは意外と急で苦労する。ただし尾根というより斜面のような広い場所であり危険はない。その代わりにもしガスっていたらこの下りは厄介だろう。今日は快晴で視界良好なので地形図で方位を確認する必要が無いので楽だ。

 900m肩を越えると正面に高倉山が見えるが、そこに達する前の892m峰直下で尾根上の雪が落ちて藪が出ている場所が見えている。ただしその右側は雪がつながっているので迂回すれば藪を避けられそうだ。問題はその斜度で、きつい場合はスノーシューのままでは無理かもしれない。ここからではまだ距離があるので何とも言えない。

 下りにかかると尾根直上は雪が落ちて藪が出ており、残雪は尾根東側に続くようになる。おそらく西斜面は傾斜が急で雪が落ちてしまっているのだろう。その尾根東直下の雪は2箇所ほどで分断されて3m以上の高さの雪壁を形成していて、最初の雪壁は左側の藪が出た尾根直上から迂回して、次の箇所は同じく左側から雪の割れ目(クレバス)に降り立って続きの雪に乗った。以降は再び連続した雪が尾根東側に続いた。ただし、場所によっては亀裂が入っていて、時期が進むと雪が落ちてしまうだろう。あまり長持ちしなさそうな。下りは登りでのラッセル軽減のため歩幅を細かくしてトレースを刻んだ。870m肩で尾根が右に曲がると同時に尾根上に雪が乗るようになり、しばらくは尾根直上を進んでいく。

 鞍部から登り返しはなかなかきつい。ここまで5時間近く休み無しで歩き続けているからなぁ。おまけに防寒長靴は重いのでスノーシューの重さも加わって夏場の登山靴の3倍以上は重いだろう。これに雪の沈み込みが加わるので夏のアルプスよりはるかに体力を消耗する。

 892m峰直下の標高860m付近から尾根直上は雪が落ちて大きく藪が出ている区間で、892m峰てっぺんには帽子のように乗った雪が垂直の壁になっているので尾根上を進むのは無理なので、遠めに見て雪が続いていた右手を迂回する。幸いにして斜度はそれほどでもないし日差しで雪が緩んでスノーシューをキックステップで雪面に蹴りこんで水平に足を置けるので、足への負担は少なくて済んだ。

 藪が切れて雪がつながった場所をすぐに登りたかったが、残念ながら斜面を分断するように東向きの微小尾根に沿ってクラックが口を開けていて深さは2m以上。落ちれば脱出が面倒だしケガのリスクがあるので高度を下げて迂回することに。クラックの末端を慎重に跨ぎ越えて急斜面の登り返し。帰りはバックで下った。

 登り切った場所が892m峰で高倉山はまだ北の先にあるが、この先は藪が出ている箇所はなく素直に尾根上を進めばいい。しかし疲労の度合いは濃く、気温が上昇して雪が緩んで沈む深さはコンスタントに足首程度まであり、湿った重い雪なので足取りは重い。残雪はこれまで同様に尾根の東側に続いているが、地形図では尾根の西側は崖マークになっているので雪が落ちてしまうのだろう。ただしここからでは崖になっているのか全く分からないので危険は感じられない。

 雪が続く広い尾根を登り切った最高地点が高倉山山頂。今は雪庇が最高点なので無雪期の山頂よりも2,3mは高そうである。周囲に立木は皆無で文句なしの360度の大展望。谷を挟んだ目の前には桧岳から毛猛山にかけての真っ白な稜線が高い。ここから見る桧岳は槍ヶ岳と呼ぶのが相応しいほど鋭い山頂を天に突き立てていた。とても登れそうにないように見えるが、毛猛山との稜線はこことは反対側から続いているので実際には難しくはない。毛猛山から大鳥岳にかけての稜線もよく見えている。南には屏風のような荒沢岳の右手に越後駒ヶ岳。その手前には先週登った鼓が倉山。笠松山を経て右手には権現堂山から唐松山、大倉山の稜線が続く。ここから見ると大倉山も結構な距離があるが、帰り道はあれ以上の距離があるので先が思いやられる。

 出発から5時間以上動き続けて疲労が激しいので山頂で大休止。今日は快晴で日差しが強いが気温はさほど高くなく、日差しの下で休憩してちょうどいいくらいだった。風もほぼ無風。銀マットを忘れたためザックを雪の上に寝かせた上で足を延ばして昼寝。顔の上には麦わら帽子で日焼け止め。先週は帰りがけに人に出会ったが、今週はさすがにいないだろうな=トレースは期待できない。帰り道は途中から往路を外れて丸山に続く尾根に入るため、下りとはいえラッセルが必要となるだろう。

 約30分の昼寝の後で出発。相変わらず快晴で日差しは強烈だ。往路も途中から半袖、手袋無しで歩いてきたが帰りも同様。ただし、緩んだ雪の急な下りでは表面の雪もろともスノーシューが滑ってバランスを崩してコケてびしょびしょの雪面に手を付くので防水手袋が必須である。急な下りでは手袋を着用してそれを通過すると脱ぐの繰り返しだ。下りのスリップ停止用にピッケルを使うとピッケルに雪が付いて冷えて手袋無しでは冷たくて持てなくなるので、ここでも手袋が活躍。

 892m峰の下りは往路同様に藪とクラックを避けて東に大きく迂回。尾根に戻って残雪を拾いながら900m肩へと登り返し。往路の下りでは歩幅を狭くしてトレースを付けておいたので登りで重宝する。900m肩の下りも急なのでスキーのようにスノーシューを滑らせて労力削減。尾根幅が広いと安心して滑ることができる。

 810m峰、780m峰を越えて780m峰で往路の足跡に合流。正確にはピークのてっぺんは通らずに左を巻いてしまう。ここから先は往路とは違うルートなので足跡はなく新たにラッセルが必要である。気温上昇と強い日差しで雪が緩んで足首まで沈む状態が延々と続いた。ついでに湿って重い雪なのでラッセルは重く僅かな登り返しでも苦労する。

 顕著なピークである820m峰を越えれば下り基調に変わる。地形図ではここから破線が始まっているが実際に道があるかは残雪のため不明。常識的に考えれば道があるとは思えないが。ここで尾根の続き具合を確認するが、759m峰が邪魔してそれより西側の尾根の様子は見えない。徐々に高度が下がっていくのでどれくらい雪が残っているのか気になる。せめて丸山までは続いて欲しい。

 隣の759m峰にかけてはやや幅の細い雪堤のような雪の付き方であるが、特に危険はなくスノーシューのままで楽々通過。地形図では表現されないが標高780m等高線の平坦部に小ピークがあり、この下りが一部急でスノーシューのままバックで下る必要があった。

 759m峰の下りは距離にして10mほどだが雪が切れかかった場所があり、スノーシューのまま灌木藪を突っ切った。まだ雪の重みで枝が下を向いていたからいいが、立ったらスノーシューのままでは通過できなかっただろう。その後は雪が復活して藪から解放された。

 686m峰手前で一部雪が落ちて左に迂回して急斜面を登って尾根に復帰して686m峰に到着。ここからだと本沢へ派生する尾根の方が立派で引き込まれやすいが、丸山に達する主尾根は左に直角に曲がって急激に高度を落とす方である。視界が得られない状況では進路に要注意だ。主尾根の下りは急でありピークからは尾根の続き具合が見えないほどで、ここはバックで下った。分かっていればピークは登らず左(西)を巻いた方が良かった。

 地形図ではこの先の590m鞍部で林道が上がってくるはずで、左手の斜面を見ると確かに雪に埋もれた林道が延びているのが見える。鞍部に降りる直前で尾根の傾斜が急になり先が見えないほどに。崖がある可能性が高いので右手の斜面を迂回して鞍部に降り立つと、林道で削られた法面であった。

 590m鞍部の林道終点は広くなっている。立木は無いので藪化はしていない模様で現役の林道かもしれないが、一面の残雪に覆われているので路面状況は不明である。ここから610m峰への登りは大半で雪が落ちて藪が出てしまっているので、スノーシューを脱いで登る必要があるだろう。

 雪が落ちる地点まではスノーシューのまま登り、雪の終点でスノーシューをザックに括り付ける。先週の反省で藪に引っ掛かりやすい横向きではなくザックに沿って縦に収納。そのためにバンドを2本準備してきた。この効果は絶大で今回は全く藪に引っ掛からずに済んだ。なお、藪は根曲がり灌木でマンサクが咲いていた。

 610m峰にたどり着くと同時に雪が復活。南側には地面が見えていて頭が赤い境界標石と思われる杭が見えていた。地形図ではここにも破線が描かれているが本当に道があるのだろうか? 境界標石は道がない場所でも存在するので真実は不明である。

 610m峰で尾根は左に曲がるが、この下りでも雪が落ちて灌木藪が出ていたのでスノーシューを背負ったまま下り始める。ツボ足では場所によっては膝まで潜るので下りでも一苦労だ。この下りの灌木藪は先ほどの藪より薄いと思ったら、藪の根元を見たら刃物で切断されたきれいな断面が見えていたので、一度刈り払いされたらしい。しかも一か所だけでなく複数個所で刃物跡が見られた。ただし完璧な刈り払いではなく邪魔な灌木はまだ残っているので、道と呼べるほどの代物では無いようだった。でも全くの藪よりはずっとマシだった。尾根の傾斜が緩むと同時に雪が復活するが、尾根直上は相変わらず藪が出ているので右側の雪が付いた斜面を迂回した。尾根直上の雪が復活したのは標高580m肩手前からであった。

 地形図をよく見ていなかったのか、疲労で注意力が低下していたのか次の平坦な540m峰を丸山と誤認してザックを下ろしてGPSで丸山までの距離を見たらまだ500mくらいあってびっくり。ここでもう一度地形図を開いて確認するとさらに西に進んだ平坦なピークが丸山山頂であり、ここからも見えていた。まだ先にあることが分かってちょっとがっかり。

 尾根は直線的ではなく左回りに迂回するように続いているが、ここも見る限りは雪が続いているようでラッキー。もう標高は500m近くまで落ちていて、長野市街地周辺の山ではこの標高ではもう雪は皆無。豪雪地帯ならではの光景ではあるが、気温が上昇するこれからの時期は急速に雪解けが進むだろう。

 なだらかな尾根を進んで僅かに登り返した平坦なピークが丸山山頂だった。山頂付近は意外と立木は少なく、近くに立木がある西側を除いて展望はいい。高倉山はもうはるか遠くに見えており、よくもまあこれだけ歩いてきたもんだと自分で感心する。高倉山から基本的には下り基調だったとは言え小さな登り返しもいくつもあり、雪が緩んでラッセルは重いしで高倉山から3時間も休み無しで歩いてきたので休憩。ここまで時間がかかるとは思っておらず、飯は高倉山でかじったパンでおしまいだったので腹が減ったがしょうがない。残りの水を飲んで疲労回復用のサプリを服用。もう気温は下がり始めていて長袖とジャンパーを着た。これから除雪された県道まで長い林道歩きが待っているので時間がかかるだろう。

 休憩を終えて出発。ルートはこのまま尾根上を進むか深道川沿いの林道に下るか悩むところだが、この先の尾根の残雪状況で決めることにした。丸山山頂は平坦なので真ん中にいると先の尾根が見えないのであった。西に進んで尾根を見通すとまだ雪はそれなりに残っているのが見えたが、細かなアップダウンがやたらと多くて体力を搾り取られそうな地形であったので、丸山から西尾根を下って林道に出ることにした。

 しかし西尾根を少し下ると雪が落ちて尾根上は灌木藪の連続で、尾根上を歩けたのは最初だけであった。北斜面には雪が付いているので傾斜は急だがスノーシューで突っ込む。気温上昇で雪がかなり緩んでいてスノーシューでも沈むので雪面が斜めでも体重で水平になるので足への負担は少なくて済んだ。1箇所でクレバスが左右に広がり口を開けて迂回が面倒だったが、段差が少ない箇所からクレバス内部の藪に降りて反対側をよじ登って再び雪面に出た。

 可能な限り北斜面をトラバースして尾根に沿って下っていったが、標高410m付近以降は北斜面も大きく雪が落ちてしまっているので、ここからは谷へとまっすぐ下ることに。こんなこともあろうかとトラバースしながら谷を見ていたが、幸いにして見える範囲では谷は雪に埋め尽くされて流れは出ていないようだった。ただし、そこに下るにはかなりの急雪面を突破する必要がある。北斜面なので雪の緩み方は適度であり、スノーシューのままでもピッケル併用でバックで下ることが可能であった。部分的にはほとんど雪壁状態で絶対に登ろうとは思えない斜度だが、スノーシューでもキックステップが効いて雪をしっかり捉えてくれたので滑落することはなく谷底に到着できた。

 谷底は羽根川本谷と同じくおびただしいデブリに覆い尽くされていて危険地帯だった。特に今の時刻は雪が緩んでいるので雪崩の危険性はかなり高い。特に日当たりがいい南斜面が雪崩の巣窟であり、そちらを見ながらできるだけ速やかに谷を下っていった。幸い、私が歩いている最中に雪崩は生じなかった。そういえば高倉山山頂到着以降はあちこちで雪崩の音が聞こえていた。この時期だと表層雪崩ではなく全層雪崩であり、当たれば命がないような雪のブロックが落ちてくる。

 林道に降り立つと以降は往路前半と同じく雪に埋もれた林道歩き。ただし雪が緩んで足は重く、水平の歩きなのに息が上がったままである。深道川沿いの林道もデブリの山の連続で、真新しいものがいくつかあり気が抜けなかった。往路はまだ気温が低い時間帯だったのでデブリ表面の雪は締まって斜めの雪面でも滑ることはなかったが、帰りは雪が緩んで斜めの雪面はことごとく滑りやすくて足が流れ、余分な体力消耗を余儀なくされた。デブリが無い場所は平坦なのでそのようなことはなく歩きやすいのだが。

 林道歩きは地形の特徴に乏しいので読図による現在位置の把握が困難であるが、深道川を渡る橋が唯一の確実なランドマークである。これで進捗が判明するが雪の状態が悪いのでなかなか進まない。それでもスノーシューのままでは通過できないような場所がなかったのは幸いであった。

 3箇所目の橋で右岸から左岸に渡れば県道であるが、雪に埋もれているので道路状況が良くなったのかは全く分からない。その代わりにカーブミラーが登場、と言ってもミラー部分は雪崩で破損しないよう取り外されていたが。これより前の林道ではカーブミラーは存在していなかった。県道に入ってからは道幅全体を覆いつくすようなデブリはなく、水平の雪面を歩けたので楽ができた。右手には駐車した三ッ又集落が見えているがその間には深い谷に隔てられて渡る手段がないので、このまま雪に埋もれた県道を進んで迂回するしかない。

 ようやく県道の始点に到着。ここには深道川にかかる橋があるので三ッ又集落に戻れる。少しばかりショートカットして橋の袂から除雪の法面を強引に下って除雪された県道に降り立つ。やっと雪の上から固いアスファルトに切り替わり、スノーシューの出番もなくなったことも相まって足取りは軽い。

 三ッ又集落は10軒程度の民家があるが、どうも大半は空き家らしくて生活の匂いがある人家は2軒だけのように思われた。どこの小集落も高齢化により過疎化が進んでいるのだろう。もしかしたら将来的には廃村になってしまうのかも。そのときは除雪がここまで達しなくなるので高倉山はいっそう遠くなってしまう。

 もう日が傾いた時間に駐車個所に到着。荷物を積み込んでざっと着替えて車に乗り、まだ日差しがある場所まで下ってから本格的に着替えた。


まとめ
 今回のコースは道のりが20kmを越えており、残雪期に日帰りするには無理がある距離であろう。丸山を割愛して高倉山のみとしても行程はほとんど変わらないので、丸山も一緒に片づけた方がお得である。一般的にはどこかで一泊となろうが、このコースは尾根が広い部分が多く幕営適地は各所に見られた。雪が締まった時間帯のみ行動して雪が緩んだ日中はテントでお休みがベストな行動パターンであろう。このコースは標高が低いため、おそらく雪が締まり切って歩きやすくなる季節まで待つと藪が出てしまって、今度は藪で苦労することになるだろう。数日間気温が上がって雪が少し締まって激ラッセルが避けられるタイミングが来たら早めに登るのがいいと思う。ただし、林道での雪崩には十分な注意が必要である。

 

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